第8回冬季審査会 -黒帯誕生-
12月17日、2006年最後となる審査会を行いました。
誠真会発足から2年ー。
皆様のご支援・ご協力・ご指導のおかげで道場生も増加し、
過去最大人数での審査会となりました。
そして今回、発足初となる黒帯挑戦者が。
全日本チャンピオン、S・R君。
彼を挑戦させることにしました。
9ヶ月前の1級取得の日から今回の受審まで彼は死に物狂いで
稽古を重ねてきました。
実は順調なら9月に挑戦となる運びだったのですが、
私はあえて見送らせ、改めて彼の稽古姿勢・実力を再確認することに
しました。
そして、黒帯としての立ち居振る舞いを教え、彼が実行してるかを
見てきました。
稽古量をこなしながら自分で毎回追い込んでやっているか、という
稽古の質を問われ、いつ如何なる時でも礼節を崩すことない稽古姿勢・
立ち居振る舞いを長期間見られていたのですから、
彼も大変な作業だったことと思います。
しかし、彼はそれを見事やり遂げ、黒帯としての品格がついてきたように
私は感じました。
勿論、黒帯の品格・帯の品格というものは取得してから徐々について
いくものです。
ですが取得からでは間に合わないものがあると私は思っています。
黒帯は別格ー。
私は思いますし、またそうでなくてはいけないとも思います。
全ては本人の自覚なのです。
帯の重さを感じ、帯なりの態度・自覚を持って行動し、
自分の置かれている立場をしっかり把握すること。
そうした考えを持って日々稽古するからこそ成長していくのだと思います。
彼の心の中に黒帯とはこうあるべきなんだ、というものが
芽生えてきたことがわかりました。
稽古中、力を抜くことは一切ありませんでした。
怪我をしてても調子が悪くても、来たからにはやらなければいけない、
そういう気持ちを持って稽古していました。
周りがざわついていても態度を変えることはありませんでした。
双葉山の
『いまだ木鶏足りえず』
ではないですが、周りの事、自身の事で極端に気持ちが左右されない
彼を見、挑戦させることを決めました。
誰でもそうですが、昇段審査は一大イベント。
今までの集大成なわけだから心してかかるよう彼に話をしました。
そして審査当日ー。
始まる前に彼とお父さんのSさんに話をしました。
・・・規定以上の間違いがあったら100%落とす。普段の稽古態度や
日数による温情はない。型を突破しても組手で10人完遂出来ない場合は
やはり落とす。覚悟して臨んで下さい、と。
いよいよ始まった審査会。
皆動きは良い。
基本・移動と進み、難関の型へ。
白帯・オレンジ帯で間違いが目立つ。青帯以上はなかなか頑張っている。
この型の審査基準は他の団体では考えられないほど
厳しいものだと思う。
特に茶帯にとって。
落とすことが大前提のような基準だ。
型は進み、緑帯まで終わった。残っているのは茶帯のみ。
S・Rは・・・今のところ一度も間違いがない。
ここから型が難しくなる。そして何より疲労がたまり、集中力の維持が
難しくなるのがここだ。
S・Rは無難にこなしていく。あの精度を保ちながらこの量をこなしていくのは
半端な実力では無理だ。
型開始前、私は組手への意識もあるだろうから、先の事を考えこの型では
スタミナを温存させよう、などと彼が考えていたら足元すくわれるぞ、と
思っていたがその心配は杞憂だった。
彼は全力だった。
何より顔つきが違った。
完全に自分の世界に入っていた。
途中から今日のRは間違わないな、と思った。
凄まじい集中力だった。
そして本当に最後まで一度たりとも間違えることはなかった。
みんなが抜け、彼一人残った時、彼と目が合った。
汗だくの彼を見ていたら、こみ上げてくるものが・・。
いかん、と思いすぐ目を逸らす。
最後の型、転掌はもう見ていられなかった。
組手に入る。
ここでは一般部の方々が頑張った。M・Tさん、A・Mさんの連続組手は
魂のこもった見事な組手だった。
続いてT・S君も本当ボロボロに打たれながら良く踏ん張った。
良く我慢した。
そしていよいよRの番だ。
連続10人。
相手はほとんど学年が上。
辛く苦しい10人組手になるだろう。
彼の最後の挑戦が始まった。
1~3人目まではなんとかこなす。
4人目あたりから動きが落ちる。
少し技をもらい過ぎている。
帯が下でも学年は上だからパワーはある。しかもRは疲れ、向こうは
元気一杯。こういう時は防御がしっかりしてないとまずい。
そしてそれは連続組手の鉄則でもある。
5人終了時に顔色を見たがまずいと感じた。
相当疲れていた。
ここまでの内容、何より長時間の型での集中が
彼の疲労をよんだのは言うまでもない。
頑張れ、と心の中で願う。
6人目ー。
腹に何発も膝蹴りをもらい倒れる。
息が出来ていない。
一瞬止めようか悩んだ。
腹と足は一度効くと回復しない。
そして倒れ方からあと4人もつとは思えなかったからだ。
Rに問う。
・・・やるか?やめるか?どっちだ!!
審判をしているRの父・Sさんも言った。
『早く立て!止めるか!?』
Sさんも辛かったことだろう。横で息子が苦しくて倒れているのだ。
本来なら優しい言葉をかけるところを審判は中立だからと
審判の本分を守っている。
Rに再度聞く。なんとか
『押忍、やります』
と答えた。
続行する。
7人目。
腹のダメージが大きくまともに動けていない。
それを見てか、途中相手が軽く力を抜いた・・・ように私には見えた。
7人終了時に相手に注意する。
相手がどんな状態であっても手を抜くのは許さない。
経験者からすればチンタラやられる方がよっぽど疲れるのだ。
相手が力を抜いて10人こなしても、それではRには何も
経験として残らない。
限界まで心身を使い切って初めて見えてくるものがある。
そうした辛く苦しい経験が貴重な財産となり、彼の人生において
有意義なものとなり、大きく飛躍するのだ。
だから相手には一切手抜きして欲しくなかった。
Rをぶっ倒せと何回も言った。
何より今日のRは何回倒れても起き上がってくる、と思っていた。
それが黒帯受審者の覚悟なのだ。
絶対完遂してみせると固く心に誓ってこの場に立っている。
半端な気持ちでここにいるわけではない。
それは黒帯にしか分からない境地だと思う。
8人目。
気力で技を出すR。
技のスピード・表情はギリギリの状態だった。
良く戦っている。
あれだけ腹を効かされているのに・・・。
彼の精神力の強さを物語っている。
9人目。
技をもらう度に体がフラフラしている。
もう体に力が入らないのだろう。
それでも技を返すR。
しかし、動きは限界。
10人目。
ラスト。
周りの声援がすごい。
相手は入門当時からずっと一緒にやってきたTだ。
開始と同時に食って掛かるような勢いでいくT。
Rもそれに答えるように力を振り絞り応戦する。
何度も倒れそうになるR。お構いなしに出るT。
最後の攻防を見ながら、彼との思い出が私の頭の中を支配した。
走馬灯のように・・・とよく言うがそれを初めて実感した。
彼が年中で入ってきたときを・・・
全日本初挑戦で涙を呑んだときを・・・
翌年全日本3位入賞したときを・・・
全日本を獲ったときを・・・
誠真会に来たときをー。
時間となった。
空手を始めて5年。
彼の一つの節目となる審査はここに終わりを告げた。
10人組手完遂ー。
ここに誠真会初の黒帯が誕生した。
父であるSさんに促され、こちらに歩いてきたRと目が合った。
目が合った瞬間、Rは泣き崩れた。そして私も。
Rと握手をした。
泣きながら深々と頭を下げたRは私の手をいつまでも握っていた。
以外に思うかもしれないが、私は彼をあまり褒めた事がない。
しかし、今回は言いたい。
R、よくやった。よく我慢した。
君はいつも道を作る。
君の前に道はない、君の後に道は出来る。
これからも後輩の良いお手本として空手道に精進してもらいたい。
意思あるところ道は開ける。
R、お前は私にとって自慢の弟子だ。
最後に。
審査会から2日後ー。
館林稽古でRの10人目を相手したN・Tと審査会の話をした。
Tは言った。
『10人目が始まる前に先生に言われた通り、Rを
「頑張れ!頑張れ!」と思いながら打ってたら、フラフラのRからの
逆突きが腹に入って思わず倒れそうになりました。その瞬間思いました。
「なんだ、俺が頑張れじゃん!」って。』
・・・なるほど。
おわり